貝採り① ホイ・シャクティン(หอยชักตีน)

タイ

タリボン島には村が4つある。そのうちのひとつ、プロウ村に暮らしている友人が、「今日これから、姉がホイ・シャクティンを採りに行くけどあなたも行く?」と声をかけてくれた。ホイ・シャクティン(หอยชักตีน)というのは巻貝の一種で、和名ではサザナミスイショウガイ(Laevistrombus canarium)という貝のことを指すようだ。ちなみに、ホイ(หอย)という語は、貝を意味する。ホイ・シャクティンは、タイワンガザミというカニやアオリイカと並ぶ、タリボン島を代表する味覚のひとつだ。今日はそのホイ・シャクティンを採りに出かけた時の様子をご報告したい。

■2019年2月20日 

満月の翌日。ホイ・シャクティン採りは、以前ご紹介したエビ突き漁と同じく、潮が大きく引いてあらわれる海草藻場でおこなわれる漁業だ。獲りに行ける日は月に2度訪れる大潮の前後数日間である。

14時50分頃、友人のお姉さんに連れられてプロウ村の船着場へと向かった。1隻の渡し船にバケツを持った人々が次々に乗り込んでゆく。女性が多かったが男性や子どももまじって20人以上は乗船した。ぎゅうぎゅうになった船は、島北部の海草藻場へと向かった。船内は女の人たちのおしゃべりでとても賑やかだ。

船に乗船するホイ・シャクティン採りへ行く人々(2019/2/20 撮影)

漁場までは30分ほどで到着した。少し潮が引くのを待って、16時頃に下船した。船は座礁しないように少し深いところに停泊しているので、船から降りてすぐは膝上くらいまで水があった。もっと浅いところにある海草藻場へと向かう。

下船してより浅い海草藻場へと向かう(2019/2/20 撮影)

他の港からも同じように船が出ていて、ひとつの漁場に50人以上は集まっているようだった。

他の船も人を乗せて来ていた(2019/2/20 撮影)

さて、さっそくホイ・シャクティンを探しにかかる。方法は至ってシンプル。藻場に落ちている(いや、取り残されている)ホイ・シャクティンを見つけて拾うだけだ。皆、おのおの好きな場所へと散らばっていき、バケツを渡された私はポツンと取り残された。ホイ・シャクティンの姿を求めてうろうろと海草藻場を歩きはじめる。遠目に他の人を見ていると、わりと頻繁にかがみ込んで何かを拾っているのだが、悲しいかな、私にはなかなか獲物が見つからない。やっと1個発見したと思っても、その後にまた長い探索が待ち受けており、あまりに見つからないので、やがて私は海草藻場散歩を楽しんでいるだけになってしまった。単純に、ホイ・シャクティンを見つけ出す「目」がないのだ。私は漁業体験をさせてもらうたび、いつも同じ壁にぶちあたっている(「ゲデ(魚突き漁)と月齢」、「エビ突き漁」)。

バケツを持たなくてすむよう、プラスチックのたらいに紐をつけて引っ張っている人もいた(2019/2/20 撮影)

やがて、下船してから2時間ちょっとたった18時20分頃、夕日が美しく海草藻場を照らしはじめた。そろそろ帰る時刻である。潮時でもあるし、それに夕飯を作る支度のある人も多いようだった。

海草藻場の夕焼け(2019/2/20 撮影)

18時半、船に戻ってきた人たちは、わいわい言いながらお互いの漁獲を見せ合う。 バケツに半分(1~2kg)くらいの人もいれば、バケツいっぱい(3~5kg)集めた人もいた。私はというと、漁獲が少なすぎて写真を撮っていなかった。撮るまでもないと判断してしまったのだろう。なにせバケツの底が見えているような状態で、お姉さんはじめ、おばちゃんたちに大いに笑われた。

帰りの船に向かう(2019/2/20 撮影)
とある人の漁獲物(2019/2/20 撮影)

さて、ホイ・シャクティンは大きいものは1kgあたり約60~90バーツ(204〜306円:2020/8/31現在)で取引される。以下の写真はプロウ村の港にて、また別の日に撮影したものだ。仲買人が漁獲量を量ってその場で買い取っている。ちなみに、朝、外でご飯を食べるとすると1食20バーツほどかかる。なので、60バーツあると3回外で朝ごはんを食べることができる。そう考えるとなかなか魅力的だと思った(私のホイ・シャクティン採り技術ではお話にならないが)。

ホイ・シャクティンが売買されているところ(2018/1/16 撮影)

ホイ・シャクティンを食べるには、海水に一晩つける必要がある。そうすれば、翌日には湯がいておいしく食べられる。ホイ・シャクティン料理はタリボン島のごちそうには欠かせない。上品な甘味があっておいしい。

茹でたホイ・シャクティン2018/9/20)

食べる時には、中の身に爪楊枝を刺し、殻に沿って爪楊枝をくるりとひと回しして取り出す。

ホイ・シャクティンの中身。三日月型の部位はおそらく蓋(2018/9/20)

余談だが、ホイ・シャクティンには殻の厚さの違う2タイプがある。分厚い方は普通に売ることができるが、薄い方については売れないそうだ。理由は美しくないからとのことだ。しかし、味に違いはない。この殻の厚さの違いが何によるものなのかについては、まだわからないでいる。

ホイ・シャクティンの殻の違い。左下の2つは薄くて欠けてしまっているが、右は分厚い(2018/9/20)

最後に。かつてはバトプテ村でもたくさんのホイ・シャクティンが採れたという。しかし、採り尽くしてしまって、今や限られた場所でしか採れない状況になっているそうだ。現在、殻高が6cmより小さいホイ・シャクティンは採取禁止、売買禁止、食べることも禁止という規制がある。

家の外壁に貼られた6cm以下のホイ・シャクティンに関する規制事項が書かれたバナー(2018/9/27 撮影)
バナー(拡大)。左上の6という数字の箇所が6cm以内のものに関して、という意味。右下に行政関連のマークがある。

ただし、今回ホイ・シャクティン採りに参加した時には特に監視の目はなかったので、島民の自主規制で管理しているようだ。また、実は今回訪れた漁場には、本土の別の村々の漁業者がホイ・シャクティン目当てにやってきているという。タリボン島内の環境保全グループの方は、島外からの漁業者に対してどのように働きかけるか、今後の課題だと話していた。

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