One Tambon One Product(OTOP:一村一品運動)プロジェクト

タイ

タイでは政府主導の地場産業創生プロジェクト、One Tambon One Product(OTOP:オートップ)という活動が広く行われている。Tambonとはタイの地方行政の区分のひとつで、「県」「郡」に次ぐ区分、「村」のひとつ上位の区分である。

OTOPプロジェクトは、藤岡 (2006) によると、1997年のアジア通貨危機による国内経済低迷からの経済振興策として、2001年よりタクシン政権によって導入されたものである。日本の大分県発祥の「一村一品運動」がモデルになっているそうだ。

いったいどのような取り組みなのか。タイ各地の産品を政府の定めた手順に従いOTOP製品として認定し、お墨付きの特産品として普及するというものだ。登録された製品には ロゴの使用が認められる。製品は、農産物・農作物加工品といった食品、飲料、絹・綿織物、染物、石鹸、ハーブ製品、木工製品(タイ国トラン県のシンボル、ジュゴン)、観光業等幅広い。登録品数は2010年時点で8万を超えているそうだ(中小企業基盤整備機構 2013)。

私の調査地であるタリボン島では、2016年8月からOTOPプロジェクトが始まったという。タリボン島におけるOTOPの方向性は「観光客のアトラクションと地元の材料を用いた土産物」を開発することだそうだ。

2018年9月21日現在、タリボン島には10個のOTOP作業グループがあった。メンバーはほぼ女性で構成されているとのこと。ひとつの作業グループには5人以上が参加する必要があるという。その内容は以下の通りである。

・パテ(伝統的布地)
・ヒジャブ(ムスリム女性が頭を覆う布)
・シルクスクリーンプリント
・カレーペースト
・ガピ(エビの発酵調味料)
・ナマコの蜂蜜漬け
・カニの卵と唐辛子のペースト
・塩漬けの魚
・不明(食品で、砂糖と一緒に揚げた何か。具体的には調査中)
・コピ(地元の独特なコーヒーの淹れ方)

タリボン島OTOPのテーマは「漁村の生活とタイ国最後のジュゴンを楽しむ、安全(safety)な旅」(筆者訳)だそうだ。

道路脇に飾られたパネル。safetyという英単語が入っている(2018/9/25 撮影)

さて、ここまでは全体的な話をしてきたが、ここからは私が現地でOTOP活動の一端を見学した時の様子をレポートする。

2018年9月2日、OTOPのイベントが開かれるというので、お邪魔させてもらうことにした。タリボン島料理を紹介するプロモーションビデオを撮影するそうで、地元料理を作るというのだ。午前11時、区長さんが経営している民宿に女性達が集まってきた。受付で名前を書き、エプロンとキッチン帽子を受け取る。

受付の様子(2018/9/23 撮影)

タリボン島が属すカンタン郡の郡役場から社会部門のコミュニティ開発オフィサーも視察に来ていて、調理が始まる前にまず彼が開会の挨拶をした。また、料理の先生も2名、島外から来ていて、開会の挨拶に続き電子秤の使い方をレクチャーした。今回はタリボン島の地元の味わいを再現するということだったので、基準となるレシピ作成のために材料を計量しようとしていたようだ。

立っているのが料理の先生。秤の使い方をレクチャーする(2018/9/23 撮影)

レクチャーの後、みんな担当に分かれて調理を始めた。会場が一気に賑やかになった。これまでのブログに登場した女性達ももちろん参加している(ジュゴンにまつわる歌)。今日の料理のメインのひとつはプラー ・インシー(ปลาอินทรี:プラー は魚の意味)というサワラの仲間だ。60cm以上はあるプラー ・インシーを捌いていく。

プラー ・インシーを捌く(2018/9/23 撮影)

同時に、盛り付けのための飾りも準備される。バナナの葉を折ってホチキスで留めたり、カービングをしたりという作業が手際良く行われていく。

バナナの葉で飾りを作る(2018/9/23 撮影)
野菜をカービングする(2018/9/23 撮影)
調理と飾り付けを同時に進める(2018/9/23 撮影)

プロモーション映像では調理過程も重要なので、材料も計量したのち飾り付けられて撮影された。

撮影用にディスプレイされたイカのイカスミ炒めの材料(2018/9/23 撮影)

料理は飲み物と手作り菓子を含めて、魚介料理を中心に8品ほど用意された。一部だが以下に紹介する。

イカのイカスミ炒め(2018/9/23 撮影)
揚げたプラー ・インシーのカレーソース和え(2018/9/23 撮影)
プラー ・インシーのスープ(2018/9/23 撮影)

料理が完成すると女性達はカメラの前に呼ばれ、献立紹介の撮影が始まった。今回の映像は完成したらDVDに記録されたりFacebookなどを通じて発信され、広くタリボン島をアピールするツールになると聞いた。

でき上がった料理を前にカメラの前でアピールタイム(2018/9/23 撮影)

さて、すべての撮影が終わった後はみんなでテーブルを囲み、作られたたくさんの料理をわいわい言いながら食べた。見学していただけの私もちゃっかりとご馳走になった。タリボン島料理フルコースはコクのある風味豊かな味わいで、とても美味しかった。

最後に、10個のOTOP作業グループによるタリボン島オリジナル商品について。その後の展開を追えていないのだが、無事に商品化されて、女性達の安定した収入源になることを願っている。そして観光に訪れる人が増え、このタリボン島料理の美味しさがもっと伝わればと思う。

参考文献

藤岡理香(2006)「タイのOTOPプロジェクト―草の根政策の光と陰―」松井和久・山神進編 『一村一品運動と開発途上国-日本の地域振興はどう伝えられたか』 アジア経済研究所 https://ir.ide.go.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=32130&item_no=1&page_id=39&block_id=158

中小企業基盤整備機構(2013)『女性の潜在能力を活用した一村一品運動』にかかる調査 最終報告書」https://www.smrj.go.jp/doc/research_case/JP_OVOP.pdf

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