エビ突き漁

タイ

以前、月齢と深く関係している漁として、ゲデという魚突き漁を紹介した(「ゲデ(魚突き漁)と月齢」)。今日は、ゲデと同じく月齢と関係の深い、ロッ・クンというエビ突き漁について紹介したい。この漁で狙うエビは全長10cmたらずで、海草の生える藻場(学術的に海草藻場と通称される)に生息している。ゲデでは岩場が漁場だったが、エビ突き漁では海草藻場が漁場となる。

エビ突き漁は新月と満月の頃、4日間ずつおこなう。つまり、ひと月に8日間しかできない。この期間は大潮の頃なので潮の干満差が大きい。干潮時には、遠浅のタリボン島の周りには広大な干潟があらわれ、浜から遠く離れた普段海底となっている場所にも歩いて行けるようになる。タリボン島の海草藻場は浜から比較的遠く離れた場所に分布しているのだが、この8日間には歩いて行けるのだ。

では、そのエビ突き漁を体験した時のことをご紹介しよう。

■2018年9月28日

ホームステイ先のAさんの友人、Sさんにエビ突き漁に連れて行ってもらった。出発時間は夕方18時過ぎ。エビ突き漁は夜間、もしくは日の出前におこなう。なぜかというと、エビの目がヘッドライトの光を反射して光ることを利用してエビの居場所を知るためだ。日光の下では、エビは周りの砂地や海草の色に紛れてしまい、発見するのが困難となる。

さて、エビ突き漁に使う道具を紹介しよう。まずはヤスだ。エビ突き漁用のヤスは小さなエビも逃さず取れるように10本刃になっていて、ゲデで使用するヤスよりも刃が多い。

エビ突き漁でもちいるヤス(2019/9/13 撮影)

そして、獲ったエビを入れる入れ物も必要だ。タリボン島では10リットルのポリタンクを改造した手作りのポリタンクバッグをよく見かける。斜めがけできるように紐がついているところがポイントだ。ポリタンクは軽く、重い時は水面に浮かべることもできるし、使い勝手がよいのだと思う。

手作りのポリタンクバッグ(2018/9/28 撮影)

さて、実際に道具を装備すると次の写真のようになる。

エビ突き漁の装備(2018/9/28 撮影)

手にはヤス、頭にキラリとヘッドライト、お腰につけたポリタンク、足元しっかりマリンシューズ(ぬかるみに足をとられるので)。ちょっとした探検に行くようで楽しい。

出発時間の18時過ぎにはすっかり潮が引いて、干潟があらわになっていた。Sさんの親戚が経営している民宿の前の浜から、海草の生えている沖の方へと歩いていく。

沖に向かって歩いているところ。浜にほど近いところにはほぼ海草は生えていない(2018/9/28 撮影)

歩いているうちに、どんどんと日が暮れていく。

日没(2018/9/28 撮影)

10分ほど歩くと海草藻場に到着した。水深は10cmほどで、海草がゆらゆらとそよいでいる。そしてその海草の影にエビが隠れている。漁の方法は簡単、前方をヘッドライトで照らしながらエビを探してゆっくり歩く。ヘッドライトの光がエビに当たると、エビの目が赤くキラッと光る。そこをすかさずヤスで突く。失敗すると、エビはすすーっと泳いで逃げて行ってしまう。エビが泳いでいる時は突いても失敗する確率が高いので、エビが隠れている時に確実に仕留めなければならない。私のヤス捌きがとろいせいで、中途半端に突いてエビを傷つけてしまい、にもかかわらず逃してしまった時が一番心が痛んだ。獲るなら確実に仕留めたい。そしておいしくいただきたい。そんなことを考えながら夢中になってエビを探していたら、あっという間に時間が過ぎた。広く開けた空間の中、静けさに包まれて無心にエビを探すというのは、なかなか心地よかった。地元の人も単にエビを獲りたいだけではなく、この時間を楽しみたくて出かけていくのではないか、と感じた。

20時半頃、出発地点の民宿に帰宅。約2時間の探索で私の漁獲は320g、45匹だった。私が記録したところによると、地元の人の漁獲は600g~3.8kg(ただし別の日の記録)で、私の漁獲量は決して多くないことがわかる。残念ではあるが、少しでも獲れたことが嬉しかった。獲れたエビだが、自家用として消費する人も多いが、1kgあたり60~80バーツ(202~269円:2020/8/21現在のレート)で売ることもできるそうだ。

漁獲したエビ(2018/9/28 撮影)

漁獲したエビをよく見ると、白っぽい色をしたものと、縞模様のものとが混ざっていることがわかる。名前を聞いたところ、白っぽい方がクン・カウ(กุ้งขาว)、縞模様のものがクン・ライ(กุ้งลาย)というそうだ。ちなみにクン(กุ้ง)というのはエビという意味である。この2種類は売る時も食べる時も特に区別はされていなかった。残念ながら同種の雌雄なのか別種なのかは現時点ではわからない。

クン・カウ(上)とクン・ライ(下)(2018/9/29 撮影)

最後に、エビを使った料理の一例を挙げる。ホームステイ先のAさんのご主人が夜明け前にエビ突き漁でエビを獲ってきた日のこと。Aさんは晩ご飯にエビ料理を作った。エビの頭を取って殻を剥き、キャベツ炒めにした。私も手伝ったのだが、小型のエビなので下拵えの作業はなかなか手間だった。クン・カウもクン・ライも混ざっていたが、特に味に違いはなかった。総じて臭みもなく、出汁もしっかり出ていておいしかった。

エビ突き漁による朝獲れのエビをつかった炒め物(右)。中央のナムプリック・ガピ(エビを原料としたガピという発酵調味料と唐辛子で作ったディップソース)を付けていただく(2019/9/13 撮影)

エビ突き漁は、私にとってゲデに比べて難易度の低い漁だった。希望的観測ではあるが、上達する可能性がありそうだ。ホームステイ中、私はご馳走になってばかりなのだが、次、エビ突き漁をするチャンスがあれば、ホームステイ先のおかず一品分くらいは獲って献上したいと目論んでいる。

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