カニ刺し網漁

タイ

今日は、タリボン島で盛んな漁法のひとつ、ワン・プー (อวนปู)と呼ばれるカニ刺し網漁について紹介したい。ワン(อวน)とは網、プー(ปู)とはカニを意味する。この漁ではカニに限らずいろいろな魚介類が獲れるのだが、主な漁獲対象種はプー・マー(ปูม้า)というカニだ。和名ではタイワンガザミ(Portunus armatus)という。

刺し網漁の様子。タリボン島では夫妻で漁をすることは珍しくない(2018/1/12 撮影)
プー・マー(2017/10/10 撮影)

カニ刺し網漁は、比較的島から離れた漁場で操業することが多い。海底が砂地になっている場所で行う。カニ刺し網漁を営むJさん夫妻に網の構造を伺った。網の目合いは約12cm、長さは約300m、高さは約1.20mだそうだ(下図参照)。水深約8〜9mのところで操業するという。この網を複数持っていて、順繰りに使う。海底では網を45°の角度に寝かせるのがコツだとのことだ。

Jさん夫妻のカニ刺し網の概略図

また、別の人にも聞いてみた。カニ刺し網漁を営むNさん夫妻の例でいうと、長さ180mの網を8個持っていて、順繰りに使っているそうだ。Nさん夫妻の場合は、水深約14mのところで操業するとのことだ。Nさん夫婦によると、月齢カレンダー(「ゲデ(魚突き漁)と月齢」)を見てその月の出漁計画を立てるそうだ。大潮の頃の6日間ほどは休漁する。1日のスケジュールでいうと、例えば、前日設置した網を翌日午前4時〜8時に回収。漁獲物を網から外す作業をし、そして再び設置する。

漁獲物を網からはずす作業は人手を必要とする。家族総出で行うことも多い。タリボン島の午前の賑やかな風景のひとつだ。

漁獲物の回収と網の手入れ(2019/9/8 撮影)
カニ刺し網で獲れたプー・マー(2014/11/15 撮影)

収入源となる買取価格の高い漁獲物はプー・マーだが、その他にもいろいろな魚介類が獲れる。これらは売ったり自家消費したりする。

カニ刺し網で獲れたプー・マー以外の漁獲物(2019/9/8 撮影)

Nさん夫妻の約半年間の操業記録を見ると、プー・マーの漁獲量は平均して1日に約8kgほどだった。多い時には20kgも獲れたが、少ない時には2kgほどということもあった。プー・マーの取引価格は1kgあたり平均約160バーツだった。低い時で約110バーツ、高い時で約260バーツの値がついていた。大きいものだと高い値がつくとのことで、Jさん夫妻の記録では、高い時で300バーツの値がついていた。

プー・マーそのものの値段は上記の通りなのだが、加工すると、もっと高く売ることができる。プー・マーの身を湯がき、ほぐし身にするのだ。

ゆでたプー・マーの身をほぐす(2018/1/26 撮影)

普通の身と、肉厚のハサミの部分とでは後者の方が値段が良い。1kgあたり600〜700バーツで買い取られるという。プー・マーのほぐし身作りは、タリボン島の女性にとって割りの良い内職となっている。私の宿泊していた民宿のオーナーが魚介の仲買いもしていて、女性たちが売りに来る様子をよく目にした。

プー・マーのほぐし身。ハサミの部分(上の袋)とそれ以外の部分(下の袋)で分けてある(2018/1/26 撮影)
民宿兼仲買いにおけるプー・マーのほぐし身の売買(2018/1/26 撮影)

プー・マーは基本的にお金になる漁獲物なので、島の人が普段の食事で食べることはあまりない。もてなし料理や、地元産品を使った料理を売りにするレストランなどで島外の人に提供されることが多い。

島外から来た人々のためのある日のもてなし料理(2017/7/18 撮影)
レストランで供されるタリボン島料理(2018/9/20 撮影)

プー・マーの身はよく締まっていて、ジューシーで美味しい。ただ、いざいただくとなると、身をしっかり取り出そうと集中モードに入ってしまう。私にとって思わず無我の境地に至るメニューなのだった。

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