今日は、「天然ゴムの樹液採取(เก็บยาง ケップ・ヤーン)」 という記事のつづきを書く。 ゴムの木の樹液(フィールド・ラテックス)をポリタンクに採集したところでいったん筆を置いたが、その後はどうなるのか。簡単にではあるが、島外へ出荷されていくところまでを写真で追ってみよう。
と、その前に。なぜ「海辺」と謳ったこのブログで天然ゴムに関して述べているのか。実は、天然ゴム・プランテーションはタリボン島の主要産業で、漁業者も自身のゴム林を所有していたり、採取作業に雇われたりと、天然ゴム産業になんらかの形で関わっている。ジュゴンの生息するタリボン島の海辺は、一歩陸側に踏み込むと、ゴム林の世界だった。漁業者の生活を理解することは、天然ゴム・プランテーション業を理解することでもあるのではないだろうか。
さて、まずポリタンクは、荷台付きのバイクなどで島内に複数ある集積所に運ぶ。運び先は縁戚関係や地主筋、家からの距離などで選ばれているようだ。ちなみにこういった用途で用いられるバイクはゴム林の荒れた林道を走るのでかなり使いこまれている。
フィールド・ラテックスは、集積所でポリタンクごとに重量が計量され、円筒型の別のポリタンクに移される。
同時に、集積所のオーナーは、フィールド・ラテックスの一部を取り出して質を確かめ、運んできた人々に重量に応じた代金を払う。
次に、円筒型のタンクは工場へと運ばれる。ここでも先ほどの荷台付きバイクが活躍する。フィールド・ラテックスは固形物や不純物を濾過した後、酸(一般的には酢酸や蟻酸等)が添加されて固められる。その際は1シート分ずつの型枠に入れられる。酸を使用するので、工場のまわりに近づくと独特の酸っぱいような香りがしてくる。
できたシートは自然乾燥される。島内のそこここでシートが干されている光景を見かける。最初見たときは、このタオルみたいなものはいったいなんなのか!、と驚いた。
乾燥したシートはさらに燻煙しながら乾燥される。燻煙の目的は出荷・運送・保管中の防カビ・防腐効果を付与することだ(渡辺・近藤 2016).
乾燥したところで、島内での加工は終了。これらのシートは島外のもっと大きな工場へと出荷される。島内の工場はゴムの市場価格が高値になるタイミングを待って、シートをストックしているという。
以上が、タリボン島のフィールド・ラテックスがシートになって出荷されるまでの流れだ。実を言うと、フィールド・ラテックス採取の前段階のタッピング(木の皮を削る)について紹介できていないのだが、この作業は観察することができなかった。一方で、私は2009年にマレーシアのスタディーツアーに参加し、そのプログラムでタッピングを体験したことがある。タッピングで使用した刃物はタイもマレーシアも同様のものだった。スタッフの方の指示に従っておそるおそる樹皮に刃をあてたことを覚えている。すでにつけられていた傷にそわせて刃をおろしていくと白い樹液がじんわりと滲み出てきた。真っ白な修正液で引いた線のようで、それが木の生産物であることに素朴に驚いた。タリボン島で聞いたのだが、タッピングは技術が必要な作業で、下手な人がすると樹皮を傷つけすぎてしまい、収量に影響が出るという。だから、タッピングは採取作業と比べて賃金が高い。
最後に、今後調べたいことについて述べる。タリボン島で「タクシン政権の時にはゴムの市場価格がよく、かなり潤った。海外旅行に行く人もいた。それが現在はまったくレートがよくなく、暮らしが厳しい。」と言う声を聞いた。ゴムの市場価格の変動には政治も絡んでくるようなのだ(経済と政治は密接に結びついているわけだから当たり前ではあるが)。残念ながら、まだ私にはその詳細を考察するだけの勉強が足りていないので、いずれその点についても調べてご報告したいと思う。
参考文献:
渡辺訓江・近藤肇「ゴムの工業的合成法:第16回 天然ゴム」日本ゴム協会誌 90(4), 210-214, 2017 https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/90/4/90_210/_pdf
「ゴム取引の基礎知識」https://www.tocom.or.jp/jp/guide/study/textbook/documents/2016text-rubber_20161201.pdf
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