これまで私がブログでご紹介してきたタリボン島は、トラン県に属している。トラン県は、タイ南部のアンダマン海沿岸に位置する。タイ国政府観光庁のサイトによれば、トラン県の大きな特徴のひとつは、南北約120キロメートルにわたる長大な海岸線と、その沿岸に散らばる石灰岩の岩山や美しいサンゴ礁の島々である。県の約3分の2が国立公園に指定され、自然の残るリゾート地として、近年は近隣のプーケットやクラビといった有名リゾート地に続いて、欧米などからの旅行者も訪れるようになっている(https://www.thailandtravel.or.jp/areainfo/trang/より引用)。
また、トラン県はタイの中でジュゴンが最も生息している県として有名だ。1996年、ジュゴンはトラン県の象徴種(flagship spicies)となり、同年12月に県内で開催された第29回国民体育大会(通称「ジュゴン大会」)で広く紹介されたという。以来、トラン県のあちこちで、ジュゴンのオブジェや壁画などが見られるようになったそうだ( https://km.dmcr.go.th/th/c_10/d_931より引用)。
2009年9月に再びトラン県で開催された第38回国民体育大会では、ジュゴンがモチーフのマスコットが作られた。ナイサマッキ(นายสามัคคี:Mr.サマッキ)という名前だ。サマッキ(สามัคคี)とは、調和を意味する。下の写真左は観光用パネルにあしらわれていたナイサマッキ、写真右はトラン市内で出会った男の子のTシャツにプリントされたナイサマッキである(左:2014/11/18撮影、右:2014/11/15 撮影)。
ところで、トラン県のお土産物(OTOP)として有名なのは、ファイヨット郡カオコーブ(เขากอบ)村産の、テープターローという木を彫って作られた木工製品だ。
テープターロー(เทพทาโร:Cinnamomum porrectum)というのはクスノキ科の木で、主にタイ南部に分布する薬用で芳香性の高い木だ。タイ南部の人々はこの木を神聖な木だと考え、と同時に、 伝統的にスパイス、駆虫剤、強壮剤、解熱、産後の抗炎症剤として使用してきたという(Pukdeekumjorn et al. 2016, https://mgronline.com/smes/detail/9520000064773より引用)。すっきりとした柑橘を思わせる香りだと感じた。
生産しているのはテープターロー木工製品組合(ทกลุ่มผลิตภัณฑ์หัตถกรรมไม้เทพทาโร)で、2000年から活動を開始したそうだ。2001年には商品の全国展開を始めたという。その結果、テープターローは有名となり、組合は継続的に新商品を作り続けてきた。これまでにさまざまな賞を受賞していて、2005年にはPM AWARD 2005という、ヨーロッパ市場に輸出する商品の品評会で、優れた商品デザインであるという賞を受賞している。また、トラン県の5つ星商品にも選ばれている(http://www.dooasia.com/trips/%E0%B9%81%E0%B8%81%E0%B8%B0%E0%B8%AA%E0%B8%A5%E0%B8%B1%E0%B8%81%E0%B9%84%E0%B8%A1%E0%B9%89%E0%B9%80%E0%B8%97%E0%B8%9E%E0%B8%97%E0%B8%B2%E0%B9%82%E0%B8%A3/より引用)。仏像や壺、カップ、ウマやカメなど様々なモチーフの商品がある中で、ジュゴンはトラン県を象徴するものとして人気だそうだ。
木彫りのジュゴンは大小様々なデザインで商品が展開されているが、特に7cm程度の大きさのキーホルダーやマグネット型のジュゴンが値段が手頃で観光客に大変人気である。
さて、トラン県はジュゴンの保護活動を、トラン県の持続的生活の向上を図り、より良い町づくりを行うためには不可欠だと位置づけている。2017年10月、トラン県知事はトラン県のジュゴンに関する政策を下記の通り策定した。
- トラン県にとってジュゴンの問題は喫緊の深刻な問題である。人間の勝手な行動によって死亡するジュゴンの数が年間1頭以上にならないよう配慮をすること
- 市町村行政、民間、沿岸の集落、NGO、メディアなどが一体となり、ジュゴン保護の委員会を設立すること
- 県を上げてジュゴンの保護活動を行うこと
- 県民に対してジュゴンの認知度を上げ、ジュゴングッズ(商品)の作成を行い、生活用品などにジュゴンのロゴなどをいれたり、学校の授業で取り上げるなどしてジュゴンの保護に関する啓蒙活動を積極的に行うこと
- ジュゴンの肉、牙、骨の売買や、骨や牙に関する誤った信仰などに関して法的措置を厳しくとること
これを読むと、今後もトラン県ではジュゴンをモチーフにした商品やオブジェが増えていくだろうことが予想される。
しかし、ジュゴンに詳しい方やこれまでのブログを読んでくださった方は、今日ご紹介した写真を見ながらどこか違和感をお持ちになったのではないだろうか。私自身、これまであちこちで目にした「ジュゴン」に対して、時々「あれ?」と思うことがあった。
このように、形態学的な観点から見ると「これはジュゴンなのだろうか?」と首を傾げてしまうデザインも混じっている。ジュゴンという生き物の認知がまず重要なのだろうが、より正確な情報、たとえば生態的知識、歌やお話などの文化的知識も伝わるような環境教育が実施されていけば、県の啓蒙活動の意義も深まるのではないかと感じた。それに伴い、デザインも洗練されていくような気がしている。
(参考文献:Piangpen Pukdeekumjorn, Srisopa Ruangnoo, Arunporn Itharat, ”Anti-inflammatory Activities of Extracts of Cinnamomum porrectum (Roxb.) Kosterm. Wood (Thep-tha-ro)” , Journal of the Medical Association of Thailand, 99 suppl 4, 2016.)
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